パソコンや携帯電話で、世界中の誰とでも一瞬でつながることができる現代にも、昔ながらの暮らしを守っている人たちがいる。2020年の東京オリンピック開催に向けて、“本物の日本の心とは何か”が世界から問われている今、日本の真の伝統を未来へと引き継ごうとする人々を描く物語が完成した。“日本の美と精神”を表現することに生涯をかけ、日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した川端康成の傑作『古都』の新たな映画化だ。
 過去にも岩下志麻と山口百恵の主演で、1963年と1980年の2度にわたって映画化されているが、今回がこれまでと大きく異なるのは、原作の“その後”が描かれる“現代版”であること。
舞台は京都とパリ。時は生き別れになった双子の姉妹、千重子と苗子が最後に会って別れてから20数年後。それぞれに娘が生まれ、すっかり大人の女性になった二人は、新たな葛藤を抱えていた。千重子は代々続く呉服店を娘の舞に継がせるつもりだったが、舞から思わぬ抵抗を受ける。北山杉で林業を営む苗子は絵画を志す娘の結衣を快くパリに送り出したが、結衣が自分の才能に疑問を持ち始めていることに気付く。娘と同じ年の頃、千重子も苗子も人生の岐路に立ち、迷っていた。あの時の自分が下した決断に想いを馳せながら、二人は娘の未来のために何をしてやれるのかを問いかける─。

千重子と苗子を一人二役で演じるのは、今や日本を代表する演技派女優の地位を確立した松雪泰子。繊細で思慮深い千重子と、おおらかでチャーミングな苗子を完璧に演じ分けたのはもちろん、着付け、茶道、京言葉、京料理の稽古を重ねてこの役に臨んだ。
千重子の娘の舞には橋本愛、苗子の娘の結衣には成海璃子と、若手ながら凛としたその存在感で、既に本格派の女優として認められている二人の共演が実現した。その他、千重子の夫に伊原剛志、養父に奥田瑛二と、実力派が脇を固める。
小説『古都』のもう一人の重要な主役は“京都”である。文豪が遺した世界観に恥じない“ほんまもん”を追求するために、京都府と京都市の後援を得て、オールロケを敢行。茶道のシーンでは、裏千家今日庵からの全面的な協力で、国宝級の茶道具が用意された。また、華道のシーンでは池坊専好次期家元、座禅のシーンでは妙心寺退蔵院の松山大耕副住職が自ら出演している。さらに、千重子の呉服店は、実際に室町で呉服店を営む町家(国登録有形文化財)を借りて撮影、松雪と橋本が着用する着物には総額2000万超に上る、こだわり抜かれた逸品がそろえられた。
現代版として、日本の文化が海外へと発信される様子を描くため、もう一つの古都パリでもオールロケを実現。美しい街並みだけでなく、パリに暮らす人々のリアルな姿も捉えた監督は、ハリウッドで映画製作を8年間学び、帰国後もアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督などの現場に参加したYuki Saito。一度外へ出た国際的かつ新たな視点で京都に真正面から向き合い、日本の精神を五感で体感できるかつてない映像を完成させた。試写会で観たフランス前総領事からは、「どの場面を切り取っても絵になる素晴らしい映像なので、ぜひパリ祭で上映したい」と絶賛され7月のパリ祭での上映が実現した。
エンディング曲は、中島みゆき作詞作曲の「糸」。歌うのは期待の新鋭、シンガーソングライターの新山詩織。のびやかさに胸に刺さる強さも秘めた20歳の声が、ストーリーと響き合い、余韻を深める歌詞を歌い上げる。 日本の伝統に生きることを選んだ二人の母親が、娘へと引き継ぐ大切なものとは何かに気付いていく姿を情感豊かに描く感動作。